自転車

12/07/28
自分はロードバイクで夜間のヒルクライムが趣味の人間。はまった理由ってのがちょっとだけオカルト。

本業は超長距離走だが、その一環としてやっていたヒルクライムにのめり込み、暇さえあれば近くの山を登りに行ってた。

基本は昼だが、仕事があったりすると夜に行くこともたまにあった。

その山は緩やかな坂が10~15kmくらい延々と続く山で練習にはちょうどよく、目印になる休憩所などもあり、地元ではヒルクライムのメッカだった。

その出来事は3~4年前の夏。とても暑かったが湿度は低く、坂を攻めるにはいい夜だった。

その時は坂用のおNEWのタイヤを履き、ルンルン気分で山のふもとまで車で移動した。たぶん22時ぐらいだったかな?

その山は19時ごろすぎると0といってもいいくらいの交通量で、ひと気がまったくない。メッカと言っても夜だと自転車もいない。自分一人ってのがまた燃えるんだよね。

坂を登り始めて30分かそこらで、ある休憩所についた。

その休憩所は販売機があり、景色もいいからいっつもそこで休憩していたんだが、よくみると薄暗い電灯の下に先客がいる様子。

一瞬びっくりしたが、近くにロードが見えたため同業者とわかり、安堵して声をかけたんだ「こんばんわー」って。

その人はかなり高価な自転車を乗っていたんだが、年齢はたぶん20代ぐらい。下手したら未成年の若者だった。

向こうも一瞬びっくりした様子だったが、私の自転車を見てにこやかに返事をしてくれた。ロードバイカーって同業者だとわかるとすごく安心するんだよな。

その若者と少しの間自転車談義にのめり込んだ。好きな坂や行った土地の体験など、とても楽しいひと時だった。その後は自分は坂の上、若者は坂を下るらしいので名残惜しかったがそのまま解散。

その坂には頻繁に行くのだが、その若者にはそれっきり会うことはなかったが。



意外な形で再び会うことになったのが1年後だった。次に会ったその若者は冷たい死体だった。

いや、殺人とか埋められたのを発見したとかじゃないんだ。その若者の葬式に呼ばれたんだ。

若者と会ってから1年後くらいに知らない番号から電話があった。

その時の私は事故でロードバイクを失い、本当に落胆していて何をする気力もなかったんだが、不思議とその電話には手が伸びた。

電話口からはおっさんの声で

「いきなりこんな電話をして申し訳ありません。そちらは××さんであっているでしょうか?」

と聞かれた。確かにおれの名前は××だ。だがその声には聞き覚えがなかった。そうだと答えると

「あなたは〇〇山でロードバイクに乗っておられますか?」

おれは気味が悪くなったが、乗っていると答えた。向こうは安堵したような ため息をついたあと

「ぶしつけながら申し訳ありません。一度お会いすることはできないでしょうか?大事なお話があるのですが」

と言われた。さすがに怪しいな...と思い、なぜだ?と聞いた。

「間違いだったらすぐ電話を切ってもらってかまいません。去年の7月×日にこれこれこのような自転車に乗った人に会いませんでしたか?」

それはあの若者の自転車のことだった。若者の自転車は高級品で、そうそうあるものではないためよく覚えていた。

私は少し機嫌が良くなり、彼はいまどうしてる?と聞き返した。

「彼は死にました」

私はよくわからないめまいに襲われた。え?死んだ?そう聞き返すと

「私は彼の親類なのですが....詳しい話がしたいので、このあとご予定はありますでしょうか?」

このあと会えないか?と言ってきたので、もちろんYESと答えた。

(めずらしい苗字ではあるのですが、電話番号をどうやって調べたかは未だに不明です)

そして向こうが指定したファミレスに行った。ファミレスにいたのはなんの変哲もないおっさんで服は喪服だった。

詳しい話とは?と聞き席についた。

「いきなりの連絡、呼び出しなど申し訳ありません、しかしちょっと急ぐもので...」

と、かしこまって粛々と話し始めた。

少年の死因は交通事故、それもロードバイクで転倒した時、運悪くガケに自分だけ転落したらしい。

少年には彼しか親戚がおらず、ほとんど天涯孤独であった。

少年の家を片付けていたところ一冊の日記が見つかり、その末尾に

「もし自分が死んだら、7/×日に××山で私によくしてくれた〇〇さんを探して自転車を渡して欲しい」

と書いてあったらしい。

自分の名前が書いてあることに驚愕したが、自分のロードバイクにも書いてあるから、それを見たんだろうと思った。

私は愛車を失っていたことと、いろいろ心労が重なってかなり危ない精神状態であったが、その自転車を譲り受けることにした。

その人は

「自転車から、少し気味の悪さを感じていたので助かります」

と言っていた。

その黒がかった赤のロードバイクは昼に走るとすごく重く感じるのに、なぜか夜走るとものすごく軽く感じる。周りのロードバイク乗りに乗らせてもみんな同じ反応だった。

そしてこの自転車を受け継いだ私は、たった30分ほどしゃべっただけの彼と竹馬の友のような親近感がするようになった。

それ以降私は彼への弔いと友情を思って、その自転車に乗るのは夜だけと決めている。

そして今日も彼と山に行きます。
いつかまた会えないかなぁ。


599 :本当にあった怖い名無し ID:Gtf5+Waq
∧∧山にまつわる怖い・不思議な話Part63∧∧