優しい世界

599: 一回は一回です。。 2006/04/24(月) 00:41:45 ID:j7wnF1XD
寝不足で車の運転に自信が持てなかったので、電車にて帰宅した時のこと。 
前に立っていたお姉さん(と言ってもきっと私より若い(爆))が、
くにゃりと倒れ込んでしまった。 

「大丈夫ですか?」

と声をかけても朦朧としているようで返事がない。 
これは席を譲るだけでは済みそうもない、と判断した私は、
周囲の人にも声がけしてその女の人を降ろすことにした。 

隣に座っていたおばあさんとその前に立っていた若い男性が手伝ってくれて、
無事ホームの椅子に寝かすことが出来た。 

男性は駅員さんに声をかけておきます、と去り、
おばあさんも上品そうな会釈を残して去っていった。



まだ苦しそうにしているお姉さんの服を差し支えない範囲でゆるめ、顔色を見守る。 

と、肩に何かが当たる感触がした。 

帰宅ラッシュ時のホームで、椅子に向かうようにしゃがんでいるので
邪魔になっているのだと思い、自分が使っている杖(足が悪いので)を
なるべく邪魔にならないところに置き、椅子ににじり寄って介抱を続けた。 

と、また激しく肩というか、腰の当たりに衝撃がはしる。 

ああ、まだ邪魔になってるかなぁと思い、

「すみません」

といいながら振り向いた。 

目線の先に、杖をもったおじいさんが凄い形相をして立っていて、
さらに杖でこづいて来た。
 
「年寄を立たせておいて、若い女が寝てるんじゃない!!」

…一瞬、何を言われているのか分からなかった。

やっとのことで意味を飲み込んで

「いえ、具合が悪いようなので、駅員さんが来る間だけでも、
横になったほうがいいかと思って…」

みたいなことを言った。
 
するとおじいさんはますます杖を振り回し、お姉さんの腕を
ぐいぐいと引っ張って起こそうとする。 
お姉さんが無意識ながらも抵抗するとますます怒る。 

「お願いですから、やめて下さい」

と言うと頬を張られた。
 
泣いちゃおうかなと思ってたら、駅員さんが飛んできて止めてくれた。 
それなのに、おじいさんはそっぽをむいて舌打ちしてなおも私を睨んでくる。
 
そして、

「ケッ」

とか言いながら私の杖を思いっきりけっ飛ばした。
 
あっ、と思うまもなく杖は線路のほうに滑っていく。 

一瞬真っ白になった頭と自分を励まして文句を言ってやろうとしたそのとき、 

「いい加減にしなさいっ!」

と、声が響いた。 

びっくりしてみると、先ほどの上品そうなおばあさんが、
仁王立ちをしておじいさんをにらみ返している。
 
「あなた!いい年をして恥を知りなさい! 具合が悪い人に
絡む元気があるのなら、歩いて帰ったらいかが!」
 
おじいさんは、なおも不満げに椅子の端を杖でなぐりつけ、どこかにいってしまった。 

どこからかまばらにおこる拍手。 

おばあさんは恥ずかしそうに、私の杖を拾うと、

「てへっ」

っといった感じで舌を出しながら差し出してくれ、たぶん介抱用に
買ってきたんだと思われるタオル地のハンカチを3枚ほど濡らして
ちょっと絞って、お姉さんの額に当てた。 

私はゆるめた胸元をもう一度確認して、そっと手を握った。 

「すみません、ご迷惑をおかけしてしまって…」

お姉さんが消えそうな声で呟いたので二人で微笑み、

「気にしないで。具合はどう?」

「すこし休ませてもらった方が良いと思うよ」

とか声をかけた。 

まもなくして担架が到着して、お姉さんは事務室のほうに運ばれていった。 

見送ってから、

「先ほどはありがとうございました。助かりました」

と、おばあさんにお礼を言った。

「格好良かったです☆」 

おばあさんはニコッっと笑いながら、

「いえいえ。あなたも充分、格好良かったですよ」

と言ってくれた。
 
人垣も消えたホームで、顔を見合わせて

えへへっ

と二人で笑って、

「帰りましょうか?」

「そうですね」

といって彼女は電車に、私は途中駅からでは立っていられないので
タクシー乗り場に、それぞれ別れた。 
タクシー代はちょっと痛かったけど、ほわんと良い気持ちだった。 

どうせ歳をとるなら、このおばあさんみたいに歳を取りたいなー 
また、逢えるといいな。 


胸がスーッとする武勇イ云を聞かせて下さい!(31)