竹林

17/06/26
ちょうど今くらいの時期の話なのですが、峠にタケノコ採りに行った時の話です。

峠には私が所属している愛好会の方3名と、私の合計4人で行きました。みんな年齢等バラバラで、最高齢の方で58歳でした。

タケノコ取りに行こうと言い出したのもその最高齢の方でその方は樽さんと呼ばれ、みんなから慕われてました。

とても男らしい見た目の方なのですが、他の仲間の話だと、樽さんはサンダーで爪を研ぎ、ランマーで腰の指圧をし、釘をつま楊枝代わりに使うというくらいワイルドな方らしいのです。

そんな樽さんが穴場だと言う峠に行ったのですが、確かに人が全くいないというか、車が通れる道も途中でなくなり、そこから15分くらい歩いてやっと到着という場所なのです。

到着し、携帯のアラームを設定し、2時間後ここに集合とだけ言い、それぞれ竹林の中に入っていきました。

私は一服してから向かったのですが、竹林に入ってすぐにこれでもかってくらいタケノコがあります。これはすごい…妻も喜ぶだろうなと思いながら、夢中でタケノコを取り始めました。

リュックサックにこれ以上入らないくらいまで詰めたので、約束の時間まで少し早いですが、集合場所に向かうことにしました。集合場所にはまだ誰もおらず、私はタケノコの写メを妻や友人に送ったりしてました。

集合時間が近付くにつれ、みんな戻り始め、みんなのリュックもパンパンに膨れ上がってました。

「いやぁ~すごいねここ!さすが樽さんだね!」

などと言い合っていたのですが、その樽さんだけがまだ戻っておりません。



すぐに来るだろうと、取ったタケノコを見せあったりしながら時間を潰しましたが、約束の時間から1時間たっても樽さんは戻ってきません。

さすがにおかしいと思い、仲間の1人が樽さんに電話してみることに。幸い電波は悪いものの繋がりはするので連絡は取れたのです。

無事繋がったみたいで、状況を聞くと、

「ごめんごめん熱中しすぎて時間を忘れてた。すぐに戻る!」

とのこと。

ケガしたり遭難したりしていなくて一安心した我々は再び樽さんの帰りを待つことに。そのあとさらに1時間待つが樽さんは戻ってこず。

「樽さんどんだけタケノコ取ったんだよーw」

などと笑いあってましたが、さらに1時間待つも戻ってこず。仲間が再び電話をすると、

「ごめんごめんすぐ戻るから!」

とさっきと変わらない様子。これ、遭難してるんじゃないかと思い始め、仲間が

「もしかして樽さん迷いました?」

と聞くと、どうやら観念したらしく、

「ごめんな遭難した…」

と認めたらしいです。今から探しに行きますね!と言うも、

「お前らまで迷ったら洒落にならん。何とかするからもう少し待ってくれ」

と。樽さんの言葉通り待つも、やはり戻ってくる気配はない。

樽さんはガラケーで、通話とメールくらいしか携帯を使わないので、マップを見ることも恐らく不可能。暗くなる前に何とかした方がいいとみんなで話し合い。もう一度電話。

「樽さん大丈夫そうですか?救助の依頼出しますか?」

と提案するも、救助だけはやめてくれとの樽さん。

もしかして案外近くにいるかもとの提案に、

「樽さん今から叫ぶので声聞こえたら教えてくださいね」

「おーーーいっ!!樽さあああん!!!」

と携帯を耳に当てたまま叫ぶ友人。

みんな疲れているんだなと、私が通話を変わることに。電話を変わると樽さんは

「鼓膜が破ける!」

などと抜かしており、私はとりあえず、タケノコはあきらめて全部捨てて身軽にしてくださいと伝えるも、樽さんはもったいない、と言うことを聞かない。

その時樽さんが

「あっ!人がいるからちょっと聞いてみる!」

と言い残し電話を切ったのです。

「人がいるから道を聞くと言って切りました…」

と伝えると、みんな

「えっ…」

て表情。

こんな山奥に人なんているはずない。第一私達3人はずっと入り口付近にいるが、人なんて1人も見ていない。

不気味な事は考えたくなかったので、疲れすぎて幻覚が見えてるんだと思い、電話をかけなおすも出ない。

日も徐々に沈み始め、これはもう限界だなと判断し、レスキューを呼ぶことに。番号をぐぐっていると、おーいとの声が。声の方向を見ると樽さんが林から顔を出している。

樽さんは土下座して謝り、そして飲み物を分けてくれないかと言い、よほど喉が渇いていたのだろう、私達の持っていた飲み物を全て飲み干した。

しかし無事で本当によかったと安心していると、樽さんが、このお嬢さんがここまで案内してくれたと言い始めた。私達がポカーンとしていると、

「あれ?さっきまで一緒にいたのになあ…おかしいなあどこ行ったんだろう」

樽さん。きっと極度の疲労やら脱水症状やらです。病院行きましょうと提案するも

「違う!本当だ!めんこい顔したおねぇちゃんが連れてきてくれたんだ!!」

と叫ぶので、とりあえず車まで戻りましょうと強引に樽さんを連れていった。車に戻る途中気付いたのだが、樽さんのリュックがしおしおになっている。

「樽さんちゃんと言うこと聞いて捨ててくれたんですね」

と言うと、樽さんはそこでやっと気づいたのか、

「タケノコがないっ!」

と叫び始めた。

えっ捨てたんじゃないんですか?と聞くと、せっかく取ったのにそんなことするわけないだろうと。

樽さんが見たことない顔でしょぼーんとしていたので、私達のタケノコを分け与え、病院はその日はもう閉まっており、日も完全に落ちていたので、帰り道で発見した旅館に泊まることに。全員樽さんのおごりで。

樽さんはご飯を食べ、風呂に入ると落ち着いたのか、再び私達にほんとにすまんかったと土下座をしてきた。

その日樽さんは死んだように眠っていた。いや、本当に死んでるんじゃないかと心配するくらいピクリとも動かなかった。

しかし樽さんが冷静になった後も、道案内をしてくれた女性の事は見間違いじゃないし、確かに存在したと言い張る。

私達は、極限状態まで疲れきった樽さんが見た幻覚か、遭難した事をプライドが許せずに付いた嘘だと思っている。じゃないと怖すぎる。

女性の存在もだけど、あんな山奥に1人で女性がいることになんの疑問も持たない樽さんも。